夏バテを予防する栄養素|ビタミンB1・クエン酸の摂り方を薬剤師が解説
毎年夏になると、なんとなく体が重い、食欲がわかない——そんな「夏バテ」に悩まされていませんか。「夏バテに効く食べ物」を探している方も多いと思います。
ただ、先にお伝えしておくと、「これさえ食べれば夏バテが治る」という魔法の食べ物はありません。大切なのは特別な何かより、毎日の食べ方の土台です。この記事では、薬剤師が公的な情報をもとに、夏バテ予防に意識したい栄養素と、その現実的なとり方を整理します。
この記事で分かること
・夏バテ予防で意識したい栄養素(ビタミンB1など)
・「クエン酸で疲労回復」はどこまで本当か(誠実な整理)
・食欲が落ちてきたときの工夫と、受診を考えたいサイン
夏バテ予防は「特別な食べ物」より「食べ方の土台」から
まず前提から。「夏バテ」は、暑さが続く時期のだるさや食欲不振などをまとめて呼ぶ言葉で、医学的な病名ではありません。背景には、暑さや睡眠不足、自律神経の乱れなど、いくつかの要因が重なっていると考えられています(出典4)。
だからこそ、予防の基本は毎日の食事を整えること。一品の「効く食べ物」を足すより、3食をなるべく欠かさず、主食・主菜・副菜をそろえる——この土台があってこそ、栄養素の話が活きてきます。暑い日も、まずは食べやすい形でいいので、食事のリズムを保つことを意識しましょう。
そのうえで、夏に意識したい栄養素を見ていきます。
| 栄養素 | 体内での主な働き | 多く含む食品の例 |
|---|---|---|
| ビタミンB1 | 糖質をエネルギーに変えるのを助ける(出典1) | 豚肉、うなぎ、大豆製品、玄米 |
| たんぱく質 | 筋肉・臓器などの材料になる | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
| 水分・ミネラル | 汗で失われやすい。補給が必要 | 水・麦茶、経口補水液、野菜・果物 |
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット、日本人の食事摂取基準(2025年版)、食品成分データベース等をもとに作成。
意識したい栄養素①ビタミンB1|糖質をエネルギーに変える

夏にとくに意識したいのが、ビタミンB1です。
ビタミンB1は、ごはんや麺などの糖質をエネルギーに変えるときに必要な栄養素です(出典1)。夏は、そうめんや冷やし中華、アイス、甘い飲み物など、糖質に偏った食事が増えがち。糖質を多くとるほど、その代謝に使われるビタミンB1の必要量も増えると考えられています(出典2)。つまり、夏は意識して補いたい栄養素なのです。
なお、冷たい麺や飲み物ばかりに偏ると、胃腸の調子に影響することもあります。くわしくは冷たいものの摂りすぎは夏の胃腸不調のもと?お腹にやさしい食べ方で紹介しています。
ビタミンB1は水に溶けやすい性質(水溶性)があり、体にためておけません。一度にまとめてではなく、毎日の食事でこまめにとるのがポイントです(出典1)。多く含む食品は、豚肉(とくにヒレ・もも)、うなぎ、大豆製品、玄米など(出典3)。冷やし中華に豚肉のせる、そうめんに豚しゃぶを添える、ごはんを玄米まぜごはんにする——いつもの夏メニューに少し足すだけで十分です。
意識したい栄養素②クエン酸など|「疲労回復」の根拠を正直に
「夏バテには、お酢や柑橘のクエン酸が疲労回復にいい」——よく耳にする話です。ここは、薬剤師として誠実にお伝えします。
クエン酸が疲労回復に効く、という説を強く裏づける質の高い研究は、今のところ限られています(出典7)。「クエン酸入り」をうたう機能性表示食品もありますが、機能性表示食品は事業者の責任で科学的根拠をもとに表示し届け出る制度で、国が個別に効果を審査・許可したものではありません(出典6)。「マークがあるから効く」とは限らない、ということです。
とはいえ、お酢や梅干し、レモンなどの酸味は、食欲が落ちたときに食べやすくしてくれる実用的な働きがあります。そうめんのつゆに梅を入れる、冷奴に酸味を効かせる、といった工夫は、夏の食事を進めやすくしてくれます。「疲れが取れる成分」として期待しすぎず、食べやすさを助ける一工夫として取り入れるのがおすすめです。
汗で失うミネラル・水分、たんぱく質も忘れずに
ビタミンB1とあわせて意識したいのが、たんぱく質と水分・ミネラルです。
夏に冷たい麺や口当たりのよいものに偏ると、不足しやすいのがたんぱく質です。肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を「あと一品」加えると、体の材料になる栄養がとれます。冷奴やゆで卵、ツナなど、暑い日でも食べやすいものから足していきましょう。
たんぱく質を1日にどれくらいとればよいかの目安は、たんぱく質は1日どれくらい必要?体重別の目安と手軽な摂り方で整理しています。
また、夏は汗で水分とともに塩分(ミネラル)が失われます。厚生労働省も「のどの渇きを感じなくても、こまめに水分・塩分を補給」と呼びかけています(出典5)。食事の量が減ると食事からとれる水分も減るので、水分は食事とは別に意識してとりましょう。
食欲が落ちてきたときの工夫
「予防が大事なのは分かったけれど、すでに食欲が落ちぎみ」という方もいるでしょう。そんなときは、量を頑張って増やすより、食べやすいものに栄養を少し足すことから始めれば大丈夫です。
自炊がしんどい日は、コンビニをうまく使うのも一つの手です。コンビニで栄養バランスを整える組み合わせ方|薬剤師が選ぶ「あと一品」も参考にしてみてください。
- 冷たい麺だけで終わらせず、卵・豚しゃぶ・冷奴を一品足す
- 薬味(みょうが・しょうが・大葉)や酸味(梅・酢・レモン)で食べやすく
- 一度に食べられないときは、回数を分けてトータルで補う
- 冷たいものばかりにせず、温かい汁物を一杯はさむ
食欲が落ちたときの具体的な食べ方は、夏バテで食欲がないときの食事のコツ|食べやすく栄養をとる方法でくわしく紹介しています。無理なく、できそうなものから試してみてください。
こんなときは受診を|夏バテ以外のサイン
夏バテは多くの場合、食事・水分・休養を整えることで少しずつ楽になります。ただし、似たような症状でも、別の原因が隠れていることがあります。次のようなときは、食事の工夫を続けるより先に、医療機関への相談を検討してください。
| サイン | 対応の目安 |
|---|---|
| 強いだるさが長く続く・食事や水分がとれない | 早めに受診を |
| 発熱・吐き気・嘔吐・下痢を伴う | 別の病気の可能性。受診を |
| 暑い場所で、めまい・立ちくらみ・大量の汗・こむら返りがある | 熱中症のおそれ。涼しい場所へ移って体を冷やし、水分・塩分を補給。改善しなければ受診(出典5) |
| 暑い場所で、意識がもうろうとする・自分で水分がとれない・呼びかけへの反応が鈍い | 重い熱中症のおそれ。ためらわず救急車(119)を要請し、体を冷やして待つ(出典5) |
| 食事や休養を整えても不調が長引く | まずはかかりつけ医に相談を |
※自己診断のための表ではありません。「受診を考えるきっかけ」の目安です。
「夏バテだから」と無理に乗り切ろうとせず、体のサインに耳を傾けてください。持病があって治療中の方や薬を服用中の方は、栄養ドリンクやサプリを新しく使う前に、かかりつけの医師・薬剤師に相談すると安心です。
まとめ|今日からできる、夏バテ予防の一歩
夏バテ予防は、特別な何かより、毎日の食べ方の土台から始まります。
- 「これを食べれば治る」食べ物はない。まずは3食・バランスの土台を
- ビタミンB1(豚肉・大豆など)は糖質をエネルギーに変えるのを助ける。夏は意識して(出典1・2)
- クエン酸の「疲労回復」は強い根拠が限られる。食べやすさを助ける一工夫として(出典6・7)
- たんぱく質・水分・ミネラルも忘れずに(出典5)
- 長引く不調・脱水のサインがあれば受診を(出典4・5)
完璧な食事を目指さなくて大丈夫。暑い時期こそ、ハードルは低くていいのです。
- 【今日】次の麺料理に、豚しゃぶか卵を一品足す——ビタミンB1とたんぱく質を手軽に
- 【今日】こまめに水分・塩分を。温かい汁物も一杯——汗で失うものを補う
- 【不調が長引くとき】「夏バテだから」で片づけず相談を——別の原因が隠れていることも
小さな一品の積み重ねが、夏を元気に過ごす支えになります。できることから取り入れてみてください。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「ビタミン」— ビタミンB1・B2・ナイアシンなどはエネルギー代謝を助ける。ビタミンB群は水溶性で、エネルギーやたんぱく質の摂取量に応じて摂取を増やすことも必要 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-027.html
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 — ビタミンB1は糖質(エネルギー)代謝の補酵素で、必要量はエネルギー摂取量に応じて設定(0.4mg/1000kcalを基準に算定)。水溶性でこまめな摂取が必要 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
- 文部科学省 食品成分データベース — 豚肉(ヒレ・もも)・うなぎ・大豆製品・玄米等のビタミンB1含有量を収載 https://fooddb.mext.go.jp/
- 厚生労働省「こころの耳」用語解説「自律神経失調症」— 明らかな身体の病気がないのに自律神経のバランスが崩れていると感じることによる不調(全身倦怠感・めまい・頭痛・動悸等)。「夏バテ」は俗称で確立した病名ではない https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1591/
- 厚生労働省「熱中症予防のために」— のどの渇きを感じなくても、こまめに水分・塩分、経口補水液などを補給 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170795.html
- 消費者庁「機能性表示食品について」— 機能性表示食品は事業者の責任において科学的根拠をもとに機能性を表示し消費者庁へ届け出るもので、国(消費者庁長官)が個別に審査・許可したものではない https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報(素材情報データベース)」— 健康食品・素材の有効性は人を対象とした質の高い試験データが限られる場合が多い。クエン酸の「疲労回復」を強く支持する一次情報は確認できず https://hfnet.nibn.go.jp/
免責事項:本記事は薬剤師が公的機関の情報をもとに作成した一般的な情報提供であり、診断・治療を目的とするものではありません。効果には個人差があり、症状・持病・服薬・妊娠授乳の状況などにより適切な対応は異なります。気になる症状がある方、治療中・妊娠授乳中の方などは、自己判断せず医師・薬剤師にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。
