高齢の家族を熱中症から守る|見守りのサインとエアコン・水分の声かけを薬剤師が解説
「離れて暮らす親が心配」「エアコンをつけてと言っても、うちの親はなかなか使ってくれない」——夏になると、高齢の家族の熱中症が気がかりになる方は多いものです。やっかいなのは、高齢の方は暑さやのどの渇きを感じにくく、本人が危険に気づきにくいこと。だからこそ、見守る側のちょっとした気づきと声かけが、大きな支えになります。
この記事では、薬剤師が公的な情報をもとに、高齢の家族を熱中症から守るために「見守る側ができること」を整理します。高齢者特有の気づきにくさ、見守りのサイン、エアコン・水分の声かけの具体策、そして受診・救急を考えるラインまで。薬を続けているご家族への配慮にも触れます。
この記事で分かること
・高齢の家族が熱中症になりやすい理由(暑さ・のどの渇きを感じにくい)
・見守りのサインと、エアコン・水分の「声かけ」の具体策
・受診・救急を考えるラインと、薬を飲む家族への配慮
高齢の家族が熱中症になりやすいのはなぜ?|暑さ・のどの渇きを感じにくい
まず知っておきたいのは、高齢の方は、暑さや水分の不足を感じ取る力が下がりやすいということです。厚生労働省は、「高齢者は暑さや水分不足に対する感覚機能やからだの調整機能も低下している」と説明しています(出典1)。環境省も、高齢の方は基礎代謝が低いために「寒さには敏感でも暑さには鈍感になっている」場合があるとしています(出典2)。
つまり、若い世代なら「暑い」「のどが渇いた」と感じてすぐ対策できる場面でも、高齢の方は気づかないうちに体に熱がこもり、脱水が進んでしまうことがあります。本人が「大丈夫」と言っていても、体のほうは限界に近いこともあるのです。これは我慢強さや性格の問題ではなく、からだの変化によるもの。だからこそ、見守る側の役割が大切になります。
実際、厚生労働省によれば「熱中症患者のおよそ半数は65歳以上の高齢者」とされています(出典1)。総務省消防庁のまとめでも、熱中症で救急搬送された人のうち65歳以上の高齢者が最も多く、令和5年(5〜9月)は全体の約54.9%を占めました(出典3)。高齢の家族がいるご家庭では、決して他人事ではない数字です。
熱中症は「家の中」でも起きる|室内熱中症と、見守りが大切な理由
「外に出なければ大丈夫」と思われがちですが、熱中症は家の中でも起こります。総務省消防庁のまとめでは、熱中症の発生場所として「住居」が最も多く、令和5年(5〜9月)は全体の約39.9%を占めました(出典3)。環境省も、「特に高齢者の場合、死亡者数が圧倒的に多いのは室内というデータもあります」と注意を促しています(出典2)。
暑さを感じにくいと、エアコンを使わずに過ごしたり、「電気代がもったいない」と我慢したりしがちです。閉め切った部屋は思った以上に室温が上がり、本人が気づかないまま危険な状態になることもあります。
こうした背景から、環境省の熱中症予防情報サイトは、熱中症警戒アラートが出たときのメッセージとして「高齢者、こども等は熱中症になりやすいので特に注意し、身近な方も見守り・声かけをしましょう」と呼びかけています(出典4)。本人任せにせず、家族や身近な人が「部屋は暑くないかな」「ちゃんと水分をとれているかな」と気にかけること——それが、いちばんの熱中症対策になります。
見守りのサイン|こんな様子に気づいたら
高齢の方は自分から不調を訴えないことも多いため、見守る側が「いつもと違う様子」に気づけると安心です。次のような点は、声をかけたり室温を確かめたりするきっかけになります。
| 見守りで気づきたい点 | できること |
|---|---|
| 暑い日なのに「暑くない」と言い、エアコンを使っていない | 室温を温度計で確認し、一緒にエアコンをつける |
| 部屋が閉め切られ、室温・湿度が高い | 窓の開け方やエアコンの設定を一緒に見直す |
| 顔が赤い・ぐったりしている・汗のかき方がいつもと違う | 涼しい場所で休んでもらい、水分をすすめる |
| 受け答えがぼんやりする・食欲が落ちている | 体調を確かめ、続くようなら受診を検討する |
| 水やお茶がほとんど減っていない | こまめに飲めるよう声をかけ、手の届く所に置く |
※病気を判断するための表ではありません。「声をかける・室温を確かめる・相談を考える」きっかけの目安です。強い症状があるときの対応は、後述の「受診・救急を考えるライン」をご覧ください。
離れて暮らしている場合は、電話やビデオ通話で「今日は暑いけど、部屋は涼しい?」「お茶飲んでる?」と聞いてみる、帰省したときに温度計を置いてくる、といった関わり方も見守りのひとつです。
見守りの具体策|エアコンと水分の「声かけ」

見守りの中心になるのが、エアコンと水分への声かけです。難しいことではなく、日常の関わりの中でできることばかりです。
エアコン|「我慢しないで」を、温度計と一緒に
環境省は、熱中症警戒アラートが発表されたら「必ずエアコンを使用するように心がけましょう」「エアコンを適切に利用し、涼しい環境で過ごしましょう」と呼びかけています(出典2)。厚生労働省も、エアコン等で温度を調節し、室温をこまめに確認するよう勧めています(出典1)。
ポイントは、暑さを感じにくい本人任せにせず、温度計で「実際の室温」を一緒に確かめることです。環境省も、リビングや寝室に温度計を設置して確認することをすすめています(出典2)。「暑くないよ」と言われても、温度計の数字を一緒に見れば、本人も納得してエアコンを使いやすくなります。離れて暮らす場合は、通話中に「今、部屋は何度になってる?」と聞いてみるのもよい方法です。設定温度の数字にこだわりすぎず、「涼しく過ごせているか」を確認しましょう(出典2・4)。ご本人が「冷房で体がだるくなる」とエアコンを嫌がる場合は、冷房のだるさとうまく付き合う使い方の記事も参考になります。
水分|のどが渇く前に、こまめに
のどの渇きを感じにくいぶん、水分は「渇いてから」では遅れがちです。厚生労働省は「のどの渇きを感じなくても、こまめに水分を補給しましょう」と呼びかけています(出典1)。見守る側は、コップや水筒を手の届く所に置く、食事やおやつのたびに一緒に飲む、時間を決めて声をかける、といった工夫で「こまめに」を後押しできます。何をどう飲んでもらうか(水・麦茶・経口補水液の使い分けや塩分の考え方)は、熱中症対策と水分・塩分補給の記事や夏の飲み物の使い分けの記事もあわせてご覧ください。
薬を飲んでいる家族への配慮|「自己判断で変えない・相談する」
高齢の家族は、いくつかの薬を続けていることも少なくありません。「夏は薬の影響が心配だから」と、良かれと思って家族が量を減らしたり、水分を極端に増減させたりするのは避けてください。医薬品を扱う独立行政法人PMDAも、処方された薬について「病状が改善したからと自己判断で用量を変えたり使用を中止してはいけません」「使用中に気になる症状が現れた場合には、医師・薬剤師に相談しましょう」と案内しています(出典5)。
夏の過ごし方や水分のとり方で気になることがあれば、薬を変えるのではなく、かかりつけの医師・薬剤師に相談するのがいちばん確実です。とくに腎臓や心臓の病気などで水分のとり方について医師の指示を受けている場合は、その指示を優先してください。お薬手帳を見せながら「夏に気をつけることはありますか」「水分はどのくらいとってよいですか」と尋ねれば、その方に合った具体的なアドバイスをもらえます。薬と暑さ・熱中症の関係については、夏に薬を飲むときの注意点をまとめた記事もご参考に。
受診・救急を考えるライン|迷ったら119番
見守っていて「様子がおかしい」と感じたら、ためらわないことが大切です。厚生労働省は、「自力で水が飲めない、意識がない場合は、すぐに救急車を!」と呼びかけています(出典1)。次のようなサインがあるときは、迷わず119番を検討してください。
| こんなときは | 対応の目安 |
|---|---|
| 自力で水分がとれない | ためらわず救急車(119番)を |
| 呼びかけへの応答がおかしい・意識がはっきりしない | ためらわず救急車(119番)を |
| けいれんを起こしている | ためらわず救急車(119番)を |
| 体がとても熱い | ためらわず救急車(119番)を |
| めまい・立ちくらみ・頭痛・吐き気など(意識はある) | 涼しい場所で休み、水分・塩分を。改善しなければ受診を |
救急車を待つ間や、意識がはっきりしている軽い症状のときは、涼しい場所へ移して衣服をゆるめ、体を冷やし、(自分で飲める場合は)水分・塩分を補うのが基本です。応急処置をしても良くならないときは、医療機関を受診してください。高齢の方は症状が急に進むこともあるので、「大げさかな」と迷ったときこそ、早めの対応を心がけましょう。
まとめ|今日から家族とできること
高齢の家族を熱中症から守る第一歩は、「本人は暑さやのどの渇きを感じにくい」と知っておくことです。そのうえで、見守る側ができることを整理しましょう。
- 高齢の方は暑さ・水分不足を感じにくく、体温調節の働きも下がりやすい。熱中症患者のおよそ半数は65歳以上(出典1・3)
- 熱中症は「住居」=家の中でも多く起こる。本人任せにせず、身近な人の見守り・声かけを(出典2・3・4)
- エアコンは我慢させない。温度計で室温を一緒に確認し、涼しく過ごせているかを見る(出典1・2)
- 水分は「のどが渇く前」にこまめに。手の届く所に置き、声をかける(出典1)
- 薬を飲む家族は、自己判断で薬を変えず、夏の過ごし方や水分をかかりつけの医師・薬剤師に相談(出典5)
- 自力で水が飲めない・意識がおかしい・けいれん・体が熱いときは、ためらわず救急車(出典1)
完璧に見張る必要はありません。まずは一つ、今日からできることを選んでみてください。
- 【今日】部屋に温度計を置き、室温を一緒に確認する——「暑くない」の一言に頼らない土台づくり
- 【毎日】エアコンと水分に声をかける——「部屋は涼しい?」「お茶飲んだ?」の一言を習慣に
- 【次の通院・来局で】薬を飲む家族は、夏の過ごし方をかかりつけに相談——薬は自己判断で変えず、専門家に
離れていても、同居でも、できる見守りは必ずあります。小さな声かけの積み重ねが、大切な家族の夏を守ります。無理なく続けられることから始めていきましょう。
参考文献
- 厚生労働省「熱中症を防ぎましょう」— 熱中症患者のおよそ半数は65歳以上。高齢者は暑さや水分不足に対する感覚機能・調整機能が低下している。のどの渇きを感じなくてもこまめに水分補給を。エアコン等で温度を調節し室温をこまめに確認。自力で水が飲めない・意識がないときはすぐに救急車を https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/prevent.html
- 環境省 ecojin「熱中症警戒アラートやエアコンを利用し、この夏も万全の熱中症対策を!」— 高齢者は室内での死亡が多い・基礎代謝が低く暑さに鈍感になりやすい。アラート発表時は必ずエアコンを使い、適切に利用して涼しい環境で過ごす。リビングや寝室に温度計を設置して確認を https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/feature1/20230726.html
- 総務省消防庁「令和5年版 消防白書」— 令和5年5〜9月の熱中症救急搬送は65歳以上の高齢者が約54.9%と最も多く、発生場所は「住居」が約39.9%で最も多い https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r5/report2/66797.html
- 環境省 熱中症予防情報サイト— 熱中症警戒アラートのメッセージ「高齢者、こども等は熱中症になりやすいので特に注意し、身近な方も見守り・声かけをしましょう」。身近な方は、屋内でエアコン等を適切に使い涼しい環境で過ごせているかの確認を https://www.wbgt.env.go.jp/
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)患者向けQ&A「Q9 医師から処方されたくすりを使用する場合の注意」— 病状が改善したからと自己判断で用量を変えたり使用を中止してはいけない。気になる症状が現れたら医師・薬剤師に相談を https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0001.html
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」— 高齢者の特性や応急処置を含む国のマニュアル(背景の指針として参照) https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual_ov.php
免責事項:本記事は薬剤師が公的機関の情報をもとに作成した一般的な情報提供であり、診断・治療を目的とするものではありません。効果には個人差があり、症状・持病・服薬・妊娠授乳の状況などにより適切な対応は異なります。気になる症状がある方、治療中・妊娠授乳中の方などは、自己判断せず医師・薬剤師にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。
